痙縮に対するボツリヌス療法ついて

概要

脳卒中や脊髄損傷など上位運動ニューロンの損傷に伴い生じる痙縮は、運動速度依存性の伸張反射亢進を呈し、深部腱反射の亢進を伴う運動障害と定義されています。痙縮はスパズムやクローヌスの原因となり、変形肢位が長期間続くことで関節変形をきたします(写真1)

その結果、移乗や歩行など動作の問題、更衣など日常生活動作の妨げ、オムツ替えなど介護時の問題、強い疼痛の出現など様々な問題を生じます。そのため痙縮を軽減させる処置が必要となりますが、ボツリヌス毒素療法は手技が簡単で痙縮軽減効果が得られやすく、安全性も高いため近年普及している治療の一つです。

 

写真1. 肘屈曲、手関節掌屈、手指屈曲(握りこぶし)変形

写真1:手指屈曲の主な関与筋

方法

ボツリヌス注射は、まず疼痛や変形の原因になっている筋肉を同定(図1)し、緊張の程度に応じた投与量を決定します(図2)。注射は的確に筋肉内に薬液を注入することが重要ですので、小さな筋や深部の筋は超音波などによるガイド下で行うのが確実です(写真2)

一般的に効果は3−4ヶ月とされていますが、個々によって差があり1ヶ月程度しか効果が持たなかったケースや半年〜1年も効果が持続したケースなど様々です。ボツリヌス毒素療法の効果を活かすのは注射後のリハビリです。

痙縮の悪化により手指が屈曲位のまま開けなくなった方が、ボツリヌス注射後、指が開きやすくなりピンチ動作が可能となったことで、リハビリの結果財布からのカードの取り出しができるようになったケースもあります。(写真3)

 

図1. 手指屈曲の主な関与筋

図1.手指屈曲の主な関与筋

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図2.写真1のケースに計画した投与量

浅指屈筋 50単位
深指屈筋 50単位
合計 100単位

 

 

写真2.超音波ガイド下の施注

超音波ガイド下の施注

 

 

写真3.ボツリヌス療法による痙縮の改善

右:ボツリヌス療法による痙縮の改善 左:ボツリヌス療法による痙縮の改善

 

  • 左:治療前は親指を伸ばすことができなかった。
  • 右:治療後は親指を伸ばすことができるようになり、財布からカードを取り出しやすくなった。